たまには盛るティエとか。
常に理由を求めてたり。
ブリッジでの任務を終え、ティエリアは自室に戻る前にドックを目指す。
先の戦闘時、セラヴィの動作反応速度に違和感を感じた局面があった。
感覚でしか分からない程度のものであったが、この少しのずれが重大な過失をもたらす可能性は否定できない。
すぐにシステムを調整する必要があった。
人員が少ない中、自分でできることはできる限りやらねばならない。
それが己の命――いや、この艦のクルー全ての命を預けている自機であるなら尚更だ。
与えられた自由な時間といえど無駄にはできない。
システムの調整だけならば、休養も問題なく取れるだろう。
パイロットである以上、取れる時に休養を取り、万全の状態でいることは至上命令でもある。
調整手順を脳内で整理しながらドックに繋がる道を移動していると、突然横から伸びてきた腕によって少し細い通路へと引きずり込まれた。
腕を引き、胸倉を掴まれたそのままの勢いで壁に押し付けられ、不躾な相手の顔も確認できぬまま無理やりに唇を奪われる。
噛み付くような激しさと押さえつけられた衝撃に息がつまる。
こちらの様子など構うことなく欲求を満たそうとする、目の前の人物を捕らえられていない腕で押し返す。
しかし、びくともせず、それどころか強引に角度を変えて貪りついてくる。
息を継げず、苦しさで朦朧としながら背を殴ると、それはチッと舌打ちをしながら顔を離した。
「……っ……き、さまは何をしている……」
ぐいと口を拭い、目の前の男を睨んだ。
乱れた呼吸を整え、肩で息を吐きそうになるのを堪える。
こんなことをするのは一人しかいない。
胸倉を掴まれたままの近い距離にいたのは、予想に違わずライルであった。
イライラとした表情をしている男に問う。
「……このような場所では他のクルーに見つかる。それはあなたも本意ではないだろう。いたずらにしてはリスクが高すぎる」
今はシフトチェンジの時間で、任務に就く者、休養を取る者が艦を動いている。
このような光景を見られては、艦の雰囲気を悪くしてしまう――と彼が気を配っていたのを思い出す。
個体同士の必要以上の親密さや行為は、時として他人を疎外し、排除する。
また、生物学上の性別が同じである場合、一定を超えた感情ですら、社会的に受け入れられ難いものであると――。
……その当時は構わなかった。他人の目や思いなど興味がなかった。ただ彼が困ったように笑うから、そうなのだと認識した。
だが今はこの艦の雰囲気を乱すことなどできない。
圧倒的少数で世界に立ち向かう仲間に余計な気煩いを与えることなど。
「そんなことどうでもいい」
吐き捨てるように言い、再び乱暴に口付けてくる。
身体を押さえつけられたまま、上からぶつけるように絡められるキスは、常より更に無遠慮だった。
強引に舌を吸われ、口腔をめちゃくちゃに這い回る。
一方的に快楽を得ようとするやり方にティエリアは、唯一自由になる右手に渾身の力を込め肩を押し返した。
「……だ、から、なぜ……」
嫌がらせや戯れにしては度が過ぎていると、怒りに顔を上げた瞬間、ぞくりとした。
間近にある瞳に情念が揺らぐ。
まるで夜、ベッドの中で見せるようなその瞳に全身が竦み、そして震えた。
形容できない熱が身体の奥に灯る。
右手をライルの口との間に翳し、壁を作る。
「これはどのような行為なのですか」
途端うんざり顔をしたライルが、拘束していた腕と胸元から手を離す。
「ただの性欲処理だ。お前がちょうど通りかかったから利用しただけのな」
ずくりと熱が疼く。恐らくこの熱が脳にも飛び火したに違いない。
興醒めし、さっさと消えろと言わんばかりの男の頬に、翳していた手を伸ばし、触れる。
「ただの性欲処理なのでしょう」
親密な行為ではない。感情というものは存在しない。
だとしたらこの行為には、
「意味などない」
ならば構わない。
すぐ近くの、細々とした備品の倉庫となっている部屋の扉を開ける。
珍しく驚いている男を引きずり込み、今度はこちらから仕掛ける。
熱が全身を支配してしまう前に、早く散らしてしまわなければならない。
最低だな、と耳の遠くに聞こえる。
感情を伴わない、意味のない行為に評価をつけることなど無意味だと、頭の中で何度も繰り返す。
けれど散らす前に溜まっていく熱が、言葉を発するのを邪魔した。
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