こんな感じでCBに来てればいい。
「ライル・ディランディ」
男か女かわからない声。
きれいに言えば、中性的な声が呼び止める。
「その名で呼ぶなって言ってるだろ、リジェネ」
うんざりした顔で振り返ると、面白そうな顔をしたリジェネが立っていた。
面白そうといっても、普段に比べると、という次元であるし、そもそもその顔は能面のように無表情であった。
しかし、悲しいかな少しばかり付き合いの長い自分には、リジェネが常にないほどに楽しそうなことがわかってしまった。
「……てめぇ、面白そうな顔しやがって」
「面白そう?ほう、ではこれが期待に打ち震えるという感情か」
実に愉快だと、珍しくリジェネは口の端を上げる。
それに、鬱陶しいという感情を隠さず、眉を寄せて睨む。この程度の行為で怯むはずもないが、わかりやすく機嫌がよくないことを伝える必要がある。
人の感情を読むことが激しく不得手……というかできないモノのために。
察したところで改善があるとも思えないが。
「ついに行くそうだな」
「さて、どこにだろう?」
「失敗するなよ」
シャレも冗談も会話の間も楽しめないのかとつくづく思う。
こいつに今更そんなことができても恐ろしい話だけれど。
はぁ、と短く溜息をつき、がりがりと頭をかく。
「だったら尚更その名前で呼ぶな。ったく、どいつもこいつも面倒な仕事ばかり押し付けやがって……」
「強要はしていない。自ら飛び込んで行くのはお前だ」
「あーもう、わかってるっての。ま、このままカタロンにいるよりも面白いモンが手に入りそうだしな」
カタロンですら偽名を使い、ライル・ディランディという名を隠していたのに、その名で呼んできた黒髪の男。
呼び出された時点で何らかの情報が流失していたことはわかったが、最も秘匿度の高い個人名を一体どういう経緯で知り得たのか。
だが、ソレスタルビーイング、ガンダムマイスター、そしてロックオン・ストラトス。
この単語から導かれるのはたった一人。
「お前の望みは?」
「決まってるじゃないか。……全て滅ぼすことさ」
「そうか」
何の感情の揺らぎもなく返される返答に心地よさすら覚える。
「健闘を期待している、ロックオフ・ストラトス」
しゃべり過ぎたと呟き、リジェネは背を向け歩き出す。
「……だから、ロックオンになるんだっつの」
振り返ることなく、歩き去る背中に一応の訂正をいれる。
全くもって意味を成さないであろうが。
今までのコードネームを捨て、新たな名を背負う。
恐らく、自分と血を分け合った者の背負っていた名を。
「さって、そろそろ行くとするか」
黒髪の少年――刹那・F・セイエイとの合流時間が迫っていた。
カタロンからの離脱や身辺整理にと充てられた時間は思いの外短かった。
それが彼らの状態なのか、この名に懸ける期待なのか――これも見極める必要があるだろう。
早くこのくだらない世界を終わらせるために。
あいつが命を賭して守ろうとした世界を潰すために。
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