本編、ティエ墓参り妄想
「スメラギ・李・ノリエガは去り、アレルヤ・ハプティズムは依然行方不明ですが、艦を動かせるだけの人員は集まりました。
あとは刹那・F・セイエイ。彼が合流するのを待つのみです」
名と生没年だけが刻まれた石碑の一つに話しかける。
広大な草原には5年前の戦争で亡くなった人達のための墓が整然と並べられていた。
ここに眠る人の多くは、その石の下にはいない。
戦争締結後、生存が確認されなかったがために国によって葬られた。
いつ、どこで、亡くなったかはわからない。
ただ生きていることが認められなかった人達の集められた地だった。
その中に彼も眠っている。
彼の名だけが。
彼の育った国で、彼の愛する家族と共に眠らせてあげたかった。
だがそれは叶わなかった。
アイルランド中の墓地に問い合わせても、彼が話してくれた家族に該当する墓は存在していないという。
互いの過去に関する深い話はしていないし、戦後の混乱期にこれ以上の捜索は不可能だった。
せめて多くの人と眠っていてほしい。
あの面倒見のいい人が寂しくないように。
人の世話を焼かずにはいられない人が、誰かを見つけられるように――。
ゆるく首を振り、沈みかけた思考を戻す。
「このような服を着ることになりました」
おそらく当分この地にはやって来れない。
もしかしたら、もう二度と……。
墓に向かって話しかけるなど、昔の自分からでは到底考えられない。
だが5年もの間、寄る辺のない自分を慰め続けてくれた石碑に触れる。
ひんやりと冷たい感触は彼の持つものではない。
彼はいつも自分を暖めてくれる体温の持ち主であった。
無機質な、機械で掘られた彼の名をなぞっても、そのぬくもりは帰ってこない。
……そんなことはわかりきっていることだ。なのにその何度も確かめた厳然たる事実が改めて襲ってくる。
「世界は……世界は再び動き出そうとしています。私達も再び動き出す。
……またこの力を求めている人がいるから」
戦争が締結したからといって、全てが元通りになるわけじゃない。
望む生活が帰ってくるという訳ではない。
だからこそ、動き出さねばならない。そして自分達の信念のためにも。
「なのにあなただけがいない……」
彼だけの前で許された涙が一筋伝う。
空を覆う曇天が灰色に滲む。
彼はこんな石の下になどいない。未だに宙を彷徨っているのだ。
遥か遠い全てを呑み込む宇宙。
彼の腕の次に安らぎを与えてくれるそこは、恐らく自分が還るところなのだろう。
大きな海に抱かれて彼と一つになれるのならば、それほどに恍惚な終焉はどこにもあるはずがない。
そう思っていた――。
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